毎年全世界で出版される無数の科学論文に価値のあることがただ一つある。
宇宙の神秘は科学者になる動機にはなっても、科学者の研究テーマにはならないということだ。 Y.K
月別アーカイブ: 2006年6月
ロイヤリティ
アメリカの特許庁の玄関の石には
「特許制度は天才という火に利益という油を注いだ」
というアメリカ大統領リンカーンの言葉が刻まれている。
特許権使用料の概念は弁護士でもあったリンカーンが策定した。アメリカ大統領が武力を発動し、アメリカの「統一」を保つために発明家たちに武器の特許出願を奨励する歴史がはじまった。
21世紀のデザイナーが開発したがるのは、人間が人間を少しでもより巧妙に支配するための技術を開発しようという目的に効果的な人工物ばかりであることは、この歴史が説明する。
この200年間のデザイナーを支配するための単純な技術は、ロイヤリティ(royalty)というご褒美である。
ロイヤリティとは、語源的に王の特権、 採掘権を意味する。
リンカーンは王の特権を個人に分散化した最初の発明家であった。 Y.K
静的効果と動的効果
1
水を撒くときホースの先端を絞ると、水流は加速されてより遠くまで水が放出される。
水や風のような流体を加速するためにはノズル(加速管) が用いられてきた。
このノズルを反転させて太い方をホースの先端に取り付けるとホースの水は減速する。
2
ところが、加速管より減速管を用いた場合は、管の外部の自由流速よりも高い流速が得られることがわかった。このノズルの中にプロペラを入れてその回転からエネルギーを取り出すアイデアが最近の風車の歴史に登場した。
さらに意図的に風の流れに障害を発生させて後方に激しい渦流れを生じさせると、トリチェリーの原理から生じる低圧域によって入口での流れの加速がさらに促進される。(入り口と出口の増加する気圧差で先端部は冷却される。)入口付近で得られた加速する風速をプロペラで回転エネルギーに変換できる。
1と2は矛盾するように感じられる。ホースの場合はホース内部の流体に関しての原理である。加速管も減速管も全体が流体の中にある2の場合は、内部と外部のシナジー作用を考慮しなければならない。減速管と思われていた部品は、加速管として機能していたのである。間違った概念によってこの発明が登場するまでかなり制限されていたことになる。もっとも概念も含めて偉大な発明発見のテーマだから、こだわることは必要ないのであるが、発明者のレポートを見る限り、発明者自身がこの概念の重大な変更に気づいてない記述がある。
どのタイプの風車でも発電量は風速の3乗に比例する。
この風車は風車の静的なパーツが風速自体を増幅させるので3乗以上の効率がある。結果的に発電量が従来のおよそ5倍になる。エネルギーを取り出す場合は動的な回転装置だけではなく、風の速度自体を外部入力なしで局所的に増幅させる静的装置とのシナジー作用が発見されたのである。このシナジー作用には、外部と内部とのフィードバックが存在する。 Y.K
参照
風レンズマイクロ風車の開発
http://www.jsme.or.jp/publish/kaisi/040701t.pdf
位置センサー
雲の中またはその近くにいると雲は見えない。
雲には雲の境界線が観察者から見えるまで雲という対象物と概念は存在しない。それまではだだの水蒸気である。
観察者も一緒に雲の中に入っている場合、基準を外に探さなければならない。このような場合に基準になるのは地球という大気圏である。
さらに観察者も一緒に大気圏内に入っている場合、基準を外に探さなければならない。このような場合に基準になるのは宇宙である。
宇宙に対する姿勢や位置を正しく知るにはセンサーが必要である。
人間の場合、三半規管による姿勢制御で90度の重力との相互作用が学習することなく予め装備されている。しかし、高速で移動すると姿勢や位置を正しく知るこのセンサーはまったく役に立たなくなる。つまり宇宙に対する姿勢や位置を正しく知るにはセンサーを外部化しなければならない。天文学や航海術から幾何学が発展したのはこうした宇宙を基準とした絶対的センサーをデザインする必要があったのである。局所的な場所にいても地球を外から見るオペレーションを純化した。
しかし、飛行するどんな動物や昆虫でも生得的に装備された宇宙を基準としたセンサーが機能する。
たとえば、昆虫は偏光を識別できる。昆虫の複眼の中には、特定の偏光方向に敏感な視覚細胞が色々な方位に規則正しく集合している。また昆虫は自然界の偏光をうまく利用している。例えば、ミツバチは太陽の偏極を基準にして太陽の見えない曇天であっても方向を間違えないで長い距離を飛行できる。また、ある種のカゲロウは生殖期になると水溜まりの固有の反射光の偏光を求めて集合する。
昆虫には天文学や幾何学はなくても宇宙に対する姿勢や位置を正しく知るセンサーが予めデザインされている。 Y.K
電子的存在
20世紀の初頭に電子の存在が発見され、今では電子的社会を構築した。
電子の存在理由は今も絶対的神秘であるが、電子的社会には神秘はない。
もちろん、このブログにもない。 Y.K
雑草と海草
森は他にすることがないほど緩やかに再生するように見えるが本当は、ゆっくりと人間には感じられない速度で移動している。海に向かって。
現在の人類が海から内陸に向かって自然森を根絶やしにしたと同じように、人類がいなければ惑星地球全体を覆っていたのだから。だから、いまでも森と共生していた雑草は海草になって生き延びている。 Y.K
巨石
人は巨石に畏敬を感じる。
巨大な重量に不動性を感じる。
しかし、どんな巨石も移動した結果である。 Y.K
デフォルト
教室でノートに書きとめられた情報はたいてい教科書に書かれている。
情報を複製するだけではつまらない。
情報は複製よりも生成されやすい。
シナジェティクスのモデリングを始めよう。複製された尊敬とちがって、それは喜びをとおした理解だ。試行錯誤というひとつの軌道を生成させるには、見た目は美しくない最初の軌道を本棚に飾ろうと思ってはいけない。失敗作を廃棄する学校の悪い習慣を受け入れてはならない。
失敗はフィジクスではなく、人類固有の神秘(ミスティック・ミステイク)であり、メタフィジクスへの入口だ。
失敗は優れたデフォルトである。
構造とパターンを統合するための。 Y.K
バックミンスター・フラーとイサム・ノグチ展
デザインサイエンスは個人的に所有できる人工物デザインを除外した最初のコロニーである。
この展覧会はこのコロニーの貴重な軌跡を再現した。
例えば、ダイマクション・カーは、車体とタイヤが受ける空気抵抗を軽減するために、風洞実験から生まれた人類初のエアロダイナミクスデザインである。
フラーとノグチという独立したオリジナリティの強い結びつきには、パウリの排他原理が働く。
1つの原子軌道に属する2つの電子は、全く同一の量子状態を持つことはできない。
2つの異なった粒子は、自転軸の向きに対して90度の方向を中心として唯一の大円軌道上を回転しているのが見える。共通した軌道が、あたかも人工物という同一の中心テーマを仮想的に存在させている。
「所有は、社会的な喜びより重要とは思われない。この新たな目的なくして、彫刻という意味は、存在し得ないのである。」
このイサム・ノグチの言葉から、「彫刻」を「デザインサイエンス」に入れ替えても、2つの異なった粒子は普遍的にふるまうことができる。
こうした軌跡は、この原子核コロニーに最初から属していたもう一人のアーティストサイエンティストであるショージ・サダオ氏しか編集できなかった。
だが、気をつけなければならない。
これらの交換可能な目的には、対象物に衝突しないとき、元にかえってくるブーメランのようなプリミティブな張力プリセッションがいまも存在する。
目標に到達しない過去のエネルギーはわれわれ自身に激突する。
われわれとは天才たちの仕事を伝記のように尊敬ばかりしている主観的傍観者の場合である。
“Man knows so much and does so little. ” RBF
これは彼の忠告だろうか。
否、傍観者に容赦なく飛来するメタフィジクスのブーメランだ。
バックミンスター・フラーとイサム・ノグチ論というもっとも困難な評論は21世紀に持ち越されている。
Best of Friends: R. Buckminster Fuller and Isamu NoguchiOn view at The Noguchi MuseumMay 19, 2006 〜 October 15, 2006
http://www.noguchi.org/exhibitions.html
生きたデータベース
世界中の雑草の原種はすでに世界権力構造によって収集されてきた。
その中に日本の古代米の原種も当然含まれている。
雑草天国の日本では想像しにくいが、あらゆる穀物はかつての雑草の原種から改良された結果であるという単純な理論がやがて人々を支配するだろう。遺伝子組み換えにはこうした生きたデータベースがなければならない。このデータベースがあるからこそ遺伝子組み換えのリスクヘッジにのためにむしろ無数の原種という<現実>が担保されていくのだ。地球上の表土全体が球面モニター上でのシミュレーションような役目を負わされている。
世界中の雑草データベースは、未開民族や少数民族の血液が遺伝子治療の特許開発のために風土病の調査を装った医療チームによって、密かに採血される方法と酷似している。 Y.K