驚くことに、生産性(productivity)という概念が仕事に応用され始めたのは、
第2次世界大戦中のアメリカである。
1950年代のコンサイス辞書にはまだ記載されていない言葉だった。
1907年ヘンリーフォードがT型フォードを
量産するための工場の機械化を考案したが、
主に手作りの部品のアセンブルを合理化するためであった。
しかし、製造過程を機械化するための設備投資が
肉体労働者の生産性を直接向上させたわけではない。
バックミンスター・フラーの金属製のダイマクション・ハウスは、
第2次世界大戦中に試作され、
1950年代以降ツーバイフォーによる住宅建築の構成要素である
バスユニットやシステムキッチンに応用された。
T型フォードは当時の労働者の年収の4倍以上の価格であったが、
ダイマクション・ハウスは年収分で所有できるように設計されている。
この違いは、住宅機能のユニット化を経済的に可能するために、
モジュールまたはユニット(構成単位)という知識を
工場内の労働者に教育したからである。
(少なくともバックミンスター・フラーのクリティカル・パス方は労働者に
共有されることを前提にしている)
モジュールまたはユニット(単位)という知識の起源は
「究極の分割不可能な単位」を考案した古代ギリシャのデモクリトスにまで
遡れるが、それは仮説的な存在を前提にした思考実験であった。
ラザフォードと長岡半太郎にはじまる原子モデルを構成する電子の発見によって、
実在する物質の構成単位という概念が工場労働者の生産性に転換されるまでは
数千年を経過している。
われわれは、知識を物質に変換するテクノロジー以上に生産性を
高めることはできない希有な時代を生きている。