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反重力から反張力へ

宇宙を象徴する完全な半球が想定されたドームは
静止力学的な解法から 垂直荷重に耐える尖頭型ドームが最終的に変更され
1588年から1590年にかけて突貫工事が進められてついに頂塔は1593年に完成した。

この十六世紀の最初で最大のミケランジェロによる
サン・ピエトロ大聖堂のドーム構造をとりあげる場合でさえ、
圧縮力だけに依存しない張力と圧縮力の相互作用による構造が
最近の発見であるという驚きを抱かざるを得ない。
(その後の世界のあらゆるモスク建築は宗派を超えてこの様式を複製してきたが
そのすべては、完全な球状構造を再現したかったのである。)

宇宙パイロットの大気圏外宇宙への脱出経験からも
われわれは重力にまだ抵抗する習慣を
捨て去ろうともしていない。

重力とは
断面積のゼロの不可視の張力であり
もっとも安価な張力材である。

テンセグリティ構造においては
張力はつねに反・重力であり、重力はつねに反・張力である。
非鏡像的対称性にまだわれわれはとても不慣れである。

足場のない構造

テンセグリティ構造とは、
ついに発見された特殊な圧縮力と張力の相補的な相互関係ではなく、
大地を必要とするすべての構造物における、
本来的に足場を否定した
あるいは足場のすべての痕跡を消去した
相補性にほかならないのだ。

したがって、テンセグリティのアセンブルには
圧縮力と張力の相補的な相互関係が利用できない。

自然は足場を残さない。
あるいは、自然のすべての足場は
最小単位という優れたモジュールからデザインされている。
モジュールとは高性能なモバイル性に置換可能だ。

例えば、DNAとその複製も足場のない構造のひとつである。

コスト計算

デザインサイエンスを装ったコンセプトに
気取ったシナジェティクスモデル、あるいは
懲りすぎたテンセグリティモデル以外に
その根拠が見出されない場合
先行技術をなにも超えていない事実を
いかに隠すかというある種の技術に始終する。
たとえば、コスト計算から合理性を得るような方法とか。

真の技法は、
しばしばモデルの中に潜んでいる。
それらが劇的なコスト計算をもたらすのである。

足場のない構造

テンセグリティについては、
<張力材のある>ものと<張力材のない>ものとの対比や、
圧縮材主体の優位性と固体性、
これまで考案されたテンセグリティモデルの生成過程
(学習用のテンセグリティモデルの生成過程ほど
テンセグリティから逸脱していくものはないのである)と
構造に対する定義を放棄しなければならない。

認識の主体から生み出された概念ではないとしたら
テンセグリティの起源は
新たな認識形態と認識領域を規定するにちがいない。

自然におけるテンセグリティは
足場のない構造の生成を前提にしている。

テンセグリティ表象

圧縮材と張力材の統合がテンセグリティ構造で認識されるのではなく、
圧縮力と張力という相補性が表象に帰される
モデル言語の形成がなされてこそ
この表象が他者に伝達可能になのだ。

モデル言語の形成はモデリングからではない。
互いに異質な概念を把捉し
それを意識による統合作用に取り込むための。

破壊過程

張力材に金属ワイヤーや金属ロープを使うのは
まるで自分が打倒しようとする構造の非軽量化を
自分の構造に持ち込んでしまうような
破綻的行為にまるで気づかない人たちが
有限要素法を前提にしたテンセグリティの構造解析に耽っている。

定義された領域を小領域(=有限要素)に分割し
各要素を単純で共通な補間関数で近似することが
シナジーを再現する方法になりうるとは
だれも論証できていないにもかかわらず。

テンセグリティの構造解析は
破壊実験以上の方法はまだ見当たらない。

つまり、統合された破壊過程すら、その理論では予測できないのだ。

装ったり、耽ったりするすべての技術は
それ自体を目的としている専門分化の
行き場のない分断機能から形成される。

疑似重力

構造が重力に対して服従する様々な形式では
圧縮力があたかも主体化されるようなシステムを
前提にしているかのようであるが
テンセグリティによって
その前提はすべて完全に覆されたのである。

圧縮力を生むのは、
圧縮材の自重や重力による反作用ではなく
張力材の張力によって圧縮力を生成するシステムであった。

テンセグリティ構造は重力に依存しない唯一の構造として
発見された。

重力に依存しない構造を
思考することさえできなかった歴史のなかで
人間が服従化されていく疑似社会構造は
上からだけではなく、ほとんど下から
滲み出てくる圧縮力(=疑似重力)によって形成されている。

疑似重力圏内で育った彼らは、
重厚な経済的・政治的人格を尊敬する傾向がある。

軽薄短小な構成部材からなるテンセグリティ構造を
理解できない社会構造は
自分たちの圧縮力を英雄化する習慣のある経済・政治指導者たちだけで
形成されているわけではない。

真の構造を捉える構造の定義は
テンセグリティの発見まで何も存在していなかったのである。

服従の過程

懲りすぎた繊細すぎるテンセグリティモデル
テンセグリティ的に偽装した非構造的なモデル
軽量化を気取った非自立型モデル
構造解析を装った不完全なテンセグリティモデル

これらのモデルの共通点は
人間の居住とは無関係な技巧へのデモンストレーションであるだけではなく
テクノロジーへの服従の過程をなぞっているだけである。

革命的なシナジェティクスに
最初に挑戦する行為が
すでに発見された概念の退屈な複製である場合、
それらは受容されるための
学習過程に紛れた服従的な行為なのである。

テンセグリティ構造は
もっとも柔軟な強度を備えた唯一の構造である。

対比的存在へ

張力材は、まだ圧縮されない圧縮材を攻囲し、
圧縮力は、張力を介して、またそれらを通して形成される。
張力も圧縮力を拠り所にして形成される。
この相互作用が、<部分からは推測できない全体システム>を形成する。
このような相互作用は
まだわれわれの社会構造には存在しないのではなく
権力は、権力を持たない側を包囲し、抑圧し、
その抑圧力を拠り所にし、
その抑圧力が統治力を生むシステムとして
歴然と構築されてきたのである。
それらの違いは
圧縮材と張力材は、互いに非鏡像的な相補性を
形成する純粋な対比的存在であるが
権力とそれを持たざる者との対比は
大多数の人間のなかに曖昧に共存している現象にある。
たとえば、
大多数が互いに無関心な状態が、圧倒的な支配力に変換され、
抑圧的被曝を自ら絆と言い換えるように。

自然の構造デザイン

面構造システム、フレーム構造システム、ジョイントシステム
といったものがあるわけではない。
フレーム構造が面構造に取って代わり
また、ジョイントシステムがフレーム構造に取って代わったというのでもない。
これら三つの面、線、点に関する個々のメカニズムは
相互に作用する複合的な構造であり、
その中で変わっていくものは
それらの相互作用を見抜いて単純化された
構造に関するテクノロジーだけである。
つまり、自然が採用した構造を学びたければ、
テンセグリティ構造から始めるべきだ。