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シナジェティクス・テレ・ワークショップ 2020
7月26日(日)13時より「共鳴テンセグリティ・ワークショップ」

「シナジェティクス・テレ・ワークショップ 2020」 
7月26日(日)13時からライブ制作と講義 「共鳴テンセグリティ・ワークショップ」の案内

自分自身の存在以外の何ものをも受容しない固体的構造が振動を拒む状態が続く限り、ある振動数によってその構造は最終的に破壊される。
自己充足する構造は宇宙では存続できない。

テンセグリティ構造では、システムを通過したエネルギーはそのシステムをより強化する働きがある。

共鳴テンセグリティモデル 直径35cm  140 g 

共鳴テンセグリティモデル 直径35cm 140g
誰でも1時間以内で完成できる世界初のテンセグリティモデルキット教材
デザイン シナジェティクス研究所

つまり、外部エネルギーを受容し分散しない構造はテンセグリティではないのだ。テンセグリティ構造は共振し、共鳴する。
この動的な共鳴・共振現象には時として、美しい共鳴音を伴う場合がある。微風に吹かれるだけで球状テンセグリティは風のエネルギーを音に変換することができる。共鳴音を形成しないテンセグリティモデルはまだ調律されていない楽器であり、フラーレンは、自然が調律した最小限の量子的な楽器である。
しかし、アーティファクトの共鳴テンセグリティを誰でも作成できる。

テンセグリティモデルの作成方法においては、張力材として伸度が大きい釣糸や弾性に富んだゴムバンドなどを使用する間違った非共鳴型教材が、これまで採用されてきた。それは、テンセグリティ構造の形態を再現するだけの学習に終始してきたように思われる。
本質的なテンセグリティ構造を学ぶには、圧縮材の端部を相互に最短で結合する張力材に対して、その2点間距離をより一定に維持する素材が求められる。

バックミンスター・フラーの時代は、テンセグリティモデルの最良の張力材は、テトロンの釣糸であった。ナイロンよりも伸度が低い性質からであったが、その伸度は5%である。ステンレスワイヤーでさえ5%である。当時は、まだカーボン材は一般には市販されていなかった。
私は、テンセグリティジョイントと共に、最新の素材から張力材も統合的に再構成できるテンセグリティモデルの可能性を試験してきた。
今回の遠隔講座「シナジェティクス・テレ・ワークショップ 2020」で採用するテンセグリティ教材は、オリジナルな最新のカーボン材を使用している。それによって、テンセグリティモデルを落下させる実験映像に見られるように、落下して床と強い衝撃を受けたモデルは、その反作用を受けた次の瞬間に、空中に浮かび、テンセグリティの表面に球面波が発生し互いに干渉している現象を観察することが出来る。

宇宙から見た大規模な大気重力波

宇宙から見た大規模な大気重力波

テンセグリティ構造の独自な外力分散機能が複雑に作用するその過程において、遂にテンセグリティモデルは共振し始める。心臓のように脈動を形成しながら床へのバウンドを反複する現象は、速度カメラで記録することで初めて認識できるようになったのである。

「シナジェティクス・テレ・ワークショップ 2020」では、シナジェティクス研究所が開発したこの共鳴するテンセグリティモデルと同一タイプの、本質的なテンセグリティ教材を使用し、動くテンセグリティの原理を手から学ぶことができる。
手が思考する精密機器ならば、テンセグリティ原理を理解する際の外部化した重要な道具への再認識になるはずだ。


このハンドメイドのテンセグリティ・モデルキットを使用すれば、誰でも(中学生以上)二時間以内に最も幾何学的に正確なシンメトリックなテンセグリティモデルを組み上げることが可能になる。完成したモデルの張力がハイテンションなので、自重による変形をほとんど受けない。

この遠隔プログラムによって、より個人的でリアルなテンセグリティ体験ができる。張力が加わる毎に変容する構造形成時の、直接手から伝わってくる統合されていく連続的なテンションネットワーク感覚は、幾何学だけからは捉えられないシナジェティクスな生命感覚である。

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遠隔シナジェティクス・ワークショップ入門講座 第2弾 
2020年7月19日(日)「共鳴テンセグリティ・基本モデル」[募集終了]

開催日:2020年7月19日(日) 9時から3時間程度(モデル制作と講義)[満席]

私は、「純正・共鳴テンセグリティの基本モデルキット」(6struts-Tensegrity model)をデザインした。
このモデルは、正20面体を基本としてデザインされる。

10歳以上の子どもが遠隔で再現できるテンセグリティの基本モデルである。
共鳴テンセグリティの最小ジョイントのノットデザインは「海の民」の発明だ。
究極の物質化は張力ネットワークにおけるノットの対称的な空間配置にある。

Transformation of Six-Strut Tensegrity Structure (SYNERGETICS 1975)
©Buckminster Fuller

正20面体に内在する正五角形の対角線がこのテンセグリティの圧縮材の長さであり、正五角形の稜線の黄金比となっている。
実際の6struts-Tensegrity modelでは、張力によって3組の平行な圧縮材が綺麗に構成できるはずであるが、
その厳密な平行な状態は、3D CADの空間だけに終わる。
間違った張力材の使用によって、部分と全体の関係の調整がほぼ無限化するジレンマに陥るのである。
張力材にゴム紐や釣糸を使った偽テンセグリティは世界中に蔓延している。

2点間距離を可能な限り維持できる物質は彫刻家のスネルソンが採用したステンレスワイヤーでもない。
その10倍以上の張力に耐えるのは炭素繊維からなる超軽量の素材だけである。
テンセグリティの張力ネットワークは、より伸度の低い素材が求められる。
ステンレスロープの伸度は5%、炭素繊維ロープは1%であり、300%を超えるゴム紐は明らかに不適切である。

共鳴テンセグリティ・入門新モデル」の荷重テストでは
書籍4冊の全荷重約5kg、最大12kgまで破断しないカーボン張力材からなる純正モデルキットは
誰でも短時間で組める。

10mの高さからの落下でもバウンドする。シナジーの実在は実験から始まる。

部分の特徴や働きから推測できない全体のシステムの働きは
テンセグリティモデルの組立過程での飛躍的統合現象によってはじめて理解できる。

テンセグリティはシナジーだとしても部分と全体を再生する自然の一部にちがいない。
自然は身体の宇宙を統合し、シナジーが自然を統合する関係がテンセグリティに投影されている。

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満席のため募集終了しました。

遠隔シナジェティクス・入門講座 開始 
バックミンスター・フラーのベクトル平衡体

開催日:第2回 2020年7月4日(土) 9時から3時間程度

誰でも短時間で構成できるこのベクトル平衡体は、テンセグリティモデルと同じようにフラーのシナジェティクスを代表するモデルである。
このベクトル平衡体は半世紀にわたって、重い24本のストラットと反発力のない12個のゴム状ジョイントによって、ベクトル平衡体の平衡状態を自力で再現できなかった。無重力状態での操作を前提としてデザインされていなかったのである。
遠隔シナジェティクス・入門講座で使用するフルモデルチェンジした「ベクトル平衡体」は重力圏内でも平衡状態で自立できるようにデザインされている。超軽量化された「ベクトル平衡体」は、十分な反発力を備えた12個の樹脂ジョイントで再構成されている。

バックミンスター・フラーのベクトル平衡体は、1944年に発見された。
古代ギリシアで開始されたプラトン・アルキメデスの多面体の25世紀期間にわたる歴史を一夜にして変革したシナジェティクス・モデルである。
大理石によるプラトン・アルキメデスのモデリングは、中身が詰まった固体のモデルであった。
バックミンスター・フラーは、フレームモデルに置換しただけではなく、すべてのジョイントに角度的な自由を与えた。面角と二面角、そして中心角が、多面体の固有の角度から解放された瞬間であった。

ベクトル平衡体=ジターバグ・システムによる対称的な収縮・拡大(Jitterbug : Symmetrical  Contraction Vector Equilibrium )

「ジターバグは、大きさのない、全方位的に脈動する核をもつモデルである。ベクトル平衡体を初期状態とするジターバグの変換システムは、大きさから独立した概念システムであるため、宇宙における法則の可視化が可能である。」バックミンスター・フラー 1975

『 SYNERGETCS 』1975

今回のシナジェティクス研究所が開発したシナジェティクスモデルでは、フラーが開発した第1世代のジョイント(1944)を、全方位に対して、自立できるように、モデルを軽量化させ、同時に、つねにより対称的に連動させるために改善された第2世代(1983)を経た第3世代のX型ジョイント(2005、2019)を採用している。(特許出願済)

ベクトル平衡体は「多面体」で達成できない宇宙観を物質化している。
モデル言語は、物質を経由して脱物質化する。
多面体の固有の角度から解放されたシナジェティクストポロジーでは、つねに2点間距離は維持される。

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「ゼロ・ベクトル平衡体」
ポジティブとネガティブが共存する構造

‪「吹く風とは負の風(低気圧)から吸われている」現象に気づく場所からでさえ風がついに見えない時、風は初めて「方位と大きさ」を表すベクトルになった。
私は風が吹いたり風が止んだりする「ゼロ・ベクトル平衡体」を発見した。
「ゼロ・ベクトル平衡体」はバックミンスター・フラーの「ベクトル平衡体」が二重に結合している。
ポジティブとネガティブが共存する構造に予測を超えたシナジーが生まれる。‬
「ゼロ・ベクトル平衡体」は、「ベクトル平衡体」から8個の三角形が消えた、
より柔らかい合金である。

張力調整機能のあるテンセグリティ構造

テンセグリティが既知の構造だと理解したり
あるいはその構造を再現できた映像を見た瞬間から
観察者の認識は閉じていく。

テンセグリティは既知の構造の定義を破壊するために
発見された原理である。
テンセグリティは風とさえも共振する。
よりシステムを安定させるために。

張力調整機能のあるテンセグリティ構造 アルミ合金製 直径3m
制作 シナジェティクス研究所 構造デザイン 梶川泰司

テンセグリティ原理の発見よりも前に
テンセグリティモデルは存在しなかった。

テンセグリティを理解することは
美しいテンセグリティを複製するよりもはるかに困難である。
テンセグリティ原理の発見よりも前に
テンセグリティモデルは存在しなかったからだ。
テンセグリティの構造とパターンの発見は
重力(つまり自重)を利用したすべての構造の解体の結果であり
構造とパターンに美を求めた結果ではない。

SYNERGETICS RBF 1975
「美、真実、対称性、自己との相互関係は、正四面体を構成する」

シナジェティクス・テレワークショップ 開始
「共鳴テンセグリティモデルの起源」

私が最晩年のバックミンスター・フラー研究所で最初に見たテンセグリティモデルは、どれも輝いていた。木製の丸棒と釣糸といったありふれた単純な素材から構成されたテンセグリティは、バックミンスター・フラー研究所のどの部屋の壁にも、シナジェティクスの分類名と共に展示してあった。素材を超えた純粋なパターンが連続的な対称性の変容と共に相互変換(トランスフォーメーション)するプロセスは時間を含む動力学的な世界像そのものであった。
ベクトル平衡体の相互変換と同じくシナジェティクスのシンメトリーに対する新しいビジョンを視覚化していた。

私の最初のテンセグリティの制作方法に独自性があるかどうかをフラーに質問したことがある。その方法とは、球系多面体の各頂点をタービングさせて複数の頂点に分離し、連続的な対称性の変容の中から2つを選んで一方をテンセグリティに、他方をそのテンセグリティを作り出すためのジグにする方法であり、非共鳴型テンセグリティから共鳴型テンセグリティを生む出す方法であった。(この方法から私は後に特許権を取得した。)

テンセグリティのパイオニアであった彼は、私の試みの有効性を即座に認めたが同時に、異なった方法による彼の先行事例を紹介してくれた。彼はシナジェティクスやデザインサイエンスの講義や講演にいつも自らデザインしたテンセグリティモデルを持参していた。航空機での頻繁な移動には不向きなその直径50センチの木製の球状モデルには、折りたたむ機能が付加されていた。彼は講義や講演の始まる前には、いっさい原稿を用意しない代わりに控室で一人でしばらく瞑想する習慣があったが、テンセグリティモデルはその瞑想する彼の傍で単独で即座に組み立てられるようにデザインされていた。30本の圧縮材からなる球状テンセグリティは5分以内に組み立てられた。

私がフラーに会う前に、日本で最初に見たテンセグリティは、バックミンスター・フラーと共にある幾何学・図学者の多面体と建築との関係を解説した書籍で紹介されていたが、そのモデルは、張力部材を代用してピアノ線や針金のような直径の不釣り合いな直線材を明らかに使用していた。その直線材の両端は鋭角に曲げられ金属パイプの端部へと差し込まれていた。テンセグリティの形態だけを模倣したこの固体的モデルからは、テンセグリティのもっとも重要な機能は表面的なトリックと共に消えていた。圧縮力を受ける直線材は張力材の代替にはならない。張力による「統合作用」が「シナジェティクス=思考する幾何学」の最重要モデルからすっかり消えていたのである。インターネットのない時代にはこのような重大なミスインフォメーションは歴然と頻繁に横行し、研究者はしばしばタイムラグを利用した概念の悪質な輸入代理業を兼ねていたにちがいない。

私は、社会に属したままで、テンセグリティモデルを作成すると繊細さによる統合作用が未経験なので、そのモデルは実際には共鳴現象をほとんど引き起こさないというおそろしく単純な制約、それゆえに目の前の現実の出来事を認めるまでには至らないという事実に注目した。この操作主義的な観点はこの30年以上の空白を説明するには有効に思える。
名声や評判、地位を得るための社会に属しているかぎり、科学性を目指したとしても、共鳴テンセグリティモデルが観察者の手の中で再現されることはありえないという作業仮説に達した。

当時のノウハウや次世代のテーマは、目新しいビジネスのために表面的に模倣されることはあっても、デザインサイエンス革命のためには,つまりは人類の基本的な住居のためにはまったく共有されなかった。皮膜を取り付ける試みよりも基本的な構造とパターンを圧縮材と張力材に変換する作業でさえ、バックミンスター・フラーの1950年代の再現以上ではなかったばかりか、世界中の科学者や工学者、デザイナーや工芸家によってさえ、その張力によってもっとも調和し輝きに満ちた80年代初頭のフラー研究所のテンセグリティモデルの「美しさの段階」が再現されることはなかった。
それは主に存在の軽い張力と張力材に対する偏見からであった。

われわれはまだ圧倒的な圧縮材と圧縮力に囲まれて生きている。思考力も思考のパターンも圧縮力的である。様々な耐荷重のなかで生存しているにすぎない。不連続な個々の単独者は、他のすべての単独者との純粋な対話を経験しないばかりか、経験するための動機と目的がすでに奪われている。
だれでも最初に模倣から制作されるテンセグリティモデルは、それを作成する制作者の自己の内部の心的状態を外部に投影した段階にすぎない。

しかし、心からすべての社会的規範を否定すれば、そのとき初めて統合力に包まれたテンセグリティの純粋さが現れるだろう。自己の中にテンセグリティ的調和がなければテンセグリティが構成できないという単純さこそ、物質の純粋な結合方法を認識する最短で最良の方法になるだろう。
この作業仮説が正しければ、腐敗した社会的思考から逃れられる新たな思考方法の探査にもなるだろう。

テンセグリティ的調和とは自己の内部と自己以外の外部との相互変換に他ならない。
真のシステムにはもっとも重要な部分は存在しない。

テンセグリティの張力とは、重力の現れである。
その重力なくして、距離を隔てた異なった存在を互いに統合する力は存在しない。
重力とは断面積がゼロの、この銀河系宇宙ではもっともありふれた重さのない張力材である。
しかし、有限な宇宙は有限な経験に基づいて、その張力材は「経験する私」を除いて球状のテンセグリティ・ネットワークを形成しないのである。

無生物における「動的均衡」、それ自体が相互に無段階的に変容する。
そのどの段階にも共鳴作用を伴い、圧縮材はつねに互いに非接触なのである。

2020年5月01日

シナジェティクス研究所
梶川 泰司

概念モデルが発見されない限り、自然は観察できない。

1.
異なる経験から、観察する主体と観察される対象(他者性)との間には、タイムラグが生じる。

2.
フラーレンは古代の隕石の中にも存在し続けていた。
実際、フラーレンが発見された後に、隕石の内部を観察する過程で隕石から無数のフラーレンが発見された。
C60フラーレンは直径わずか10億分の1メートルだが宇宙でこれよりも大きい分子はまだ発見されていない。

3.
ジオでシック構造、またはテンセグリティ構造がなければ、フラーレンは発見されなかったかも知れない。

4.
概念モデルが発見されない限り、自然は観察できない。

5.
テンセグリティ原理の認識とテンセグリティモデルの制作との間には、最大級のタイムラグがある。

https://synergetics.jp/tensegrityblog/
https://synergetics.jp/workshop/ws200516.html

「遠隔テンセグリティ・ワークショップ 」5月17(日)、23(日)
タイムラグから生まれる共鳴作用

夜空も星々の「タイムラグ」で満たされている。
この無数のタイムラグは、宇宙の秩序を形成している。
テンセグリティの共鳴作用は、
断続的な外力と内部の分散機能との「タイムラグ」の統合から生まれる。
短命な微風からでさえ、テンセグリティは自らの固有振動数に目覚める。

「遠隔テンセグリティ・ワークショップ2020」
 講師 シナジェティクス研究所 梶川 泰司
⭐︎申込はこちらから
https://synergetics.jp/tensegrityblog/
https://synergetics.jp/workshop/ws200516.html

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ドストエフスキーが描いた最悪の「パンデミック」

「彼は大斎期の終わりと復活祭の一週間を、ずっと病院で過ごした。そろそろ回復しはじめてから、彼は、熱が出てうなされていた間の夢を思いだした。
病気の間に彼はこんな夢を見た。全世界が、アジアの奥地からヨーロッパヘ向かって進むある恐ろしい、前代末聞の疫病の犠牲となるさだめになった。ごく少数の、何人かの選ばれた者を除いて、だれもが滅びなければならなかった。顕微鏡的な存在である新しい旋毛虫があらわれ、それが人間の体に寄生するのだった。しかもこの生物は、知力と意志を授けられた精霊であった。これに取りつかれた人びとは、たちまち憑かれたようになって発狂した。しかし、それに感染した人ほど人間が自分を聡明で、不動の真理をつかんでいると考えたことも、これまでにかつてなかった。人間はかつてこれほどまで、自分の判断、自分の学問上の結論、自分の道徳的な信念や信仰を不動のものと考えたことはなかった。いくつもの村が、いくつもの町が、民族が、それに感染して発狂していった。みなが不安にかられ、おたがいに理解しあえず、だれもが真理の担い手は自分ひとりであると考え、他人を見ては苦しみ、自分の胸をたたいたり、泣いたり、手をもみしだいたりした。だれをいかに裁くべきかも知らなかったし、何を悪と考え、何を善と考えるかについても意見がまとまらなかった。だれを罪とし、だれを無実とするかもわからなかった。人びとはまったく意味のない憎懇にかられて殺しあった。おたがいに相手を攻めるために大軍となって集まったが、この軍隊はまだ行軍の途中で、突然殺し合いをはじめ、隊列はめちゃくちゃになり、兵士たちはたがいに襲いかかり、突きあい、斬りあい、噛みあい、食いあった。町々では一日中警鐘が乱打され、みなが呼び集められたが、だれがなんのために呼んだのかはだれも知らず、ただみなが不安にかられていた。みなが自分の考えや、改良案をもちだして意見がまとまらないので、ごくありふれた日常の仕事も放棄された。農業も行なわれなくなった。人びとはあちこちに固まって、何ごとか協議し、もう分裂はすまいと誓うのだが、すぐさま、いま自分で決めたこととはまるでちがうことをはじめ、おたがいに相手を非難しあって、つかみ合い、斬合いになるのだった。火災が起こり、飢饉がはじまった。人も物もすべてが減びていった。疫病はますます強まり、ますます広まっていった。全世界でこの災難を免れられるのは、新しい人間の種族と新しい生活をはじめ、大地を一新して浄化する使命を帯びた、数人の清い、選ばれた人たちだけだったが、だれひとり、どこにもこの人たちを見かけたものはなく、彼らの言葉や声を聞いたものはなかった。」

☆『罪と罰』(1866年出版)ドストエフスキー(岩波文庫から引用)